2023.08.30

金融勘定系システムのオープン化を実現する 「PITON®(ピトン)」の誕生

profile

白石 和久

第二金融事業本部 

PITON推進室

1997年入社。勘定系システム開発プロジェクトに携わってきたITアーキテクト。その経験を活かし『PITON®』の製品開発、普及展開の責任者を務める。

「PITON®」開発の背景

高い信頼性が求められる勘定系システム、
そのオープン化に挑み、実現へと導くのは私たちしかいない。
先人の叡智とオープンテクノロジを組み合わせ、
メインフレーム時代と同水準の信頼性・安全性・堅牢性を目指す。

 

勘定系システムは、非常に高いレベルの信頼性が求められるが故に、従来、メインフレームでの運用を前提としてきました。しかし、大手ベンダが相次いで撤退を表明するなど、メインフレームで稼働するシステムは持続可能なものではなくなっています。

勘定系システムを長年開発・維持してきたNTTデータは、勘定系システムを持続可能なものとするために、メインフレーム代替機能の研究開発をいち早くスタートしました。
研究開発に4年、製品開発に3年という月日を経て「PITON®」が、いよいよ2024年初頭にカットオーバの時を迎えます。

 

「PITON®(ピトン)」を詳しく知りたい方はこちら

 

 

メインフレームとは

おもに企業など巨大な組織の基幹情報システムなどに使用される大型コンピュータ。汎用コンピュータ、ホストコンピュータ、大型汎用機などともいう

金融システムの未来を担う、イノベーションを。

大手ベンダのメインフレーム市場撤退が相次ぎ、メインフレームやCOBOL技術者も減少を続けています。
また、メインフレームの維持に多くのコストや人的リソースが費やされることで、顧客ビジネスの発展、新規ビジネスへの投資が難しいコスト構造となっています。
勘定系システムの「オープン化」は、勘定系サービスの継続提供、金融ビジネスの発展に向けた必須の課題だと言えます。

オープン化を推進する上で、我々が重視したことは、オープンな環境でメインフレームと同等レベルの品質を確保することです。

ただし、勘定系システムをオープン化することは、決して簡単なことではありません。既存のシステムを作り直す「リビルド」などマイグレーション手法は様々ありますが、長年にわたり勘定系システムを安定稼働させてきた知見、最適化された運用が継承されないリスクを伴います。

そこで、NTTデータが導き出した答えが「リホスト」です。これまでメインフレーム上で稼働していたビジネスロジックを変更することなく、長年培ってきた叡智を最大限活かしてオープン化を実現します。

そのために必要なフレームワークが『PITON®』です。勘定系システムは24時間365日、決して止まってはならないシステムと位置付けられますが、トラブルのないシステムは存在しません。それらを未然に解決し、安定稼働を実現してきたのが、この分野の第一人者である私たちです。
PITON®とは、クライミングにおいてルート確保のために岩壁や氷壁に打ち込む鋼鉄製の釘のことを言うフランス語から引用しており、勘定系システムの安全性を「確保」し、人から人へと「継承」し、目標に向かって「導く」存在となるとの思いを込めています。新たに打ち付ける「ピトン」だけでなく、先人の打ち付けた「ピトン」を活用しながらイノベーションを創出し、安心安全にメインフレームのオープン化へと導きます。

 

 

相互理解と失敗を積み重ね、真の価値をつくる。

大規模勘定系システムのオープン化は未踏のプロジェクトであり、前例がありません。メインフレーム技術者、オープン技術者、業務有識者など、経験やスキルセットの異なるメンバの力を終結し目的を達成するには、様々な壁を乗り越える必要があります。そこで、PITON®開発で得た教訓をご紹介します。

最も大切にしていることが相互理解の促進です。互いの考えを尊重し理解し合わなくては画期的なアイデアは生まれません。
前例のないプロジェクト目的を果たすためのプロセスや成果を試行錯誤して生み出すには、様々な考えを融合して仮説検証を繰り返すことになります。「経験が異なることを理解」し、「相手の考えに共感」することで、衝突ではなく同じ目的を達成するための共通認識を醸成することが重要です。違いを認め、互いに尊重することで気付いた新たな価値が、イノベーション創出に繋がります。

そして、失敗を前向きに受け入れる健全性も必要不可欠です。成功の裏には多くの失敗があります。特に未踏の挑戦をするにはこれまでよりも多くの失敗が積み上げられることになります。
成功した事実だけでなく、失敗した事実も価値とするには、組織風土を醸成することと併せて、メンバ個々人に勇気が必要です。イノベーションを生み出すためには失敗を繰り返して学ぶこと、学んだことを活かして昇華することが大きな成果に繋がることを認識する必要があります。壁にぶつかった時こそ真のイノベーションが創出されると考え、失敗を恐れない前向きな思考転換を促しています。

本プロジェクトを通じてPITON推進室メンバが実践してきたことは、PITON®フレームワークを開発したという一過的な挑戦だけではなく、未踏の挑戦を繰り返し遂行できる変革力に繋がります。様々な意見を組み合わせ、失敗を恐れず行動し、長年にわたり安心と安全を提供してきた勘定系システムを持続可能にする。我々の活動を通じて得られた財産は、オープン化を実現するPITON®フレームワークそのものに加え、変革力を身につけたメンバであると言えます。

 

 

2024年の成功。そして、その先にある未来。

『PITON®』は、2024年1月にカットオーバを迎えるMEJAR勘定系システムでの採用が決定しています。さらに、2026年に更改予定のしんきん共同センター勘定系システム適用に向けたエンハンス開発に着手しています。

『PITON®』採用システムのカットオーバ後、一定期間の安定稼働を実現して初めて、プロジェクト成功と評することができますが、その際にはより大きな達成感を得られるものと考えています。安定稼働のためには機能の品質を追求することだけでなく、不測の事態に迅速かつ適切に対応できることも重要です。想定されるトラブルを未然に防止するために徹底的に検証すること、そして想定外のトラブルにも対応できるよう解析手順やプロセスを整備すること、この両方を達成することこそが我々に求められる品質保証です。

その一方で、PITON®開発を通じて、メンバ自身が身につけた考え方や知見という、アセットを風化させないことも重要です。フレームワークというアセットだけでなく、人財そのものが未来を創造する重要なアセットです。

先人たちが築き上げた価値と我々が作り上げた新たな価値、メインフレームの経験とオープンの経験、業務の知見と基盤の知見、といった様々な価値と経験を融合することにより、未踏のプロジェクトを完遂した我々の新たなミッションは、PITON®開発を通じて得た知見とマインドを継承することです。

勘定系システムのオープン化という未踏の挑戦をやり遂げた人財が、PITON®開発で得た変革力を人から人へ伝播することで、より多くの社員が、やりがいと成長に満ちた挑戦を続けていけるフィールドを作り上げていきたいと考えています。

 

 

開発メンバの一人として

久代 享平(第二金融事業本部 PITON推進室 開発担当)

 

自分の意志や考えを率直に伝えること、
他者の発言に敬意を払うことでチームメンバが互いに高め合うことができる。

 

金融機関の大規模メインフレーム基盤開発の経験があり、2017年から「PITON®」のプロジェクトに参画しました。現在はオンライン取引などの処理モデル設計チームリーダを務めています。

勘定系システムは、それぞれの金融機関がオーダーメイドで作ってきたものであり、独自に改修を重ね、脈々と仕組みを練り上げ、現在の形になっています。本プロジェクトにおいては、そうした多種多様な仕組みの要件を抽出し、共通化、最適化を行いながら一つのモデルにまとめ上げる作業は困難を伴い、メインフレームからオープン環境にプラットフォームが変わる技術的な違いを複合的に考えながら仕上げていくための取捨選択も必要でした。

日々、考え、一度進んではまた壁にぶつかり、後戻りを繰り返していく……。その開発はまるでループを描くようなものでした。ただし、小さな壁だからとそれを無視して進めてしまっては、後にトラブルの温床になってしまいます。PITON推進室には各方面のスペシャリストが揃っていますから、その都度メンバと対話しながら、試行錯誤を重ねていきました。議論を交わす際に、重要なのは「自分はこうしたい、ここに到達したい」という明確な意思を示すこと。さらに最も重要なのは「相手との違いを理解し、相手の考えに共感」することです。大きな声に従って諦める、小さな声に耳を傾けない、こういった諦めた発言や声にこそブレイクスルーのきっかけがあります。相互理解による新たな気付きを得ることで、自分だけでは想像し得なかった新たな道が見え、数多の壁を乗り越えていけたのです。

勘定系システムはお金や経済の流れに関わる非常に重要な社会インフラです。私は日本の勘定系システムを、これからも世界に誇れるものにしたいと思っています。もちろん自分一人の力で叶えられるものではありませんが、ここでなら、きっとその目標に近づくことができるはず。本プロジェクトで身につけた技術や、イノベーションを生むためのプロセスを後進に伝えていくことで、チーム一丸となって、さらなる価値を創造していきたいと考えています。